計算じゃないんだよ猫は

うちの猫は偽名を使っている。

動物病院の診察券には「あや」という名前が記入されているが、それは本名ではない。

俺が高3の時に家の前に落ちていた子猫、それがいまではすっかり通常サイズになったんだけど、彼女の名前はあやふやなんだ。それを獣医さんに隠すために「あや」と名乗らせている。「あやふや」だから「あや」

この話を他人にするとかなり引かれる。なんで名前つけてあげないの、と。

その度にこういう説明をする。違うんだ。名前が「あやふや」なんだ。公式であやふやちゃんなの。それを聞いて、相手は少しほっとすると同時に、やっぱりちょっと引く。何その変な名前。

 

そのあやふやちゃんの身体に、ある異変を発見した。

にゃあにゃあ言って甘えてきたから膝の上に乗せて撫でてやってたら、右の肩っていうのかな?あの名称不明の部位のところに小さな赤い点ができているのを発見した。別に痒そうにも痛そうにもしてなかったんだけど、念のため動物病院に電話を掛けることに。

「うちのあや……の名称不明の部位のところに赤いのができてます」

「ちょっと見ないとわからないので連れてきてください」

そんなやりとりがあって、全力で嫌がるあやふやちゃんを専用のキャリーバッグに入れ、歩いて病院に向かった。免許持ってないからね。

あやふやちゃん、移動中にめっちゃ泣き叫ぶ。もうこの世の終わりかってくらいに騒ぐ。ひょっとしたら捨てられると勘違いしたのかもしれない。可愛いやつめ、帰ったらお腹のたぷたぷした部位をたぷたぷしてやろう。あれホント気持ちいいんだ俺が

 

診察はスムーズだった。

獣医のおじさんが丁寧に問診して、診断は「よくわからないので暫く様子を見ましょう」

見ないとわからないと言うから来たのに、見てもわからなかった。まぁそういうこともあるよね。受付のお姉さんに540円支払って、例の偽名診察券を受け取り、出口へと向かう。そこでふと、壁に貼られた一枚のポスターが目に止まった。

それには「猫の◯歳は人間でいうと◯歳になる」という数字が並んでいた。なるほど、猫は寿命が短いから人間とは年齢の感覚が違うのだ。あやふやちゃんは今年で6歳だから人間でいうと……

 

40歳

 

おいおい悪い冗談はやめてくれ。アラサー通り越してアラフォー??

それが毎日にゃあにゃあ言ってんの?名前だけじゃなく年齢も詐称??

いや、なんとなく理解してはいたけど、40という生々しい数字は結構ショックだった。そりゃお腹たぷたぷにもなるわ。熟女の魅力ってわけですかそうですか。

 

あやふやちゃんも疲れただろうけど、俺もそこそこ疲れて帰宅。

バッグに入れる時はあれほど抵抗したあやふやちゃん、扉を開けた瞬間に脱出。そんなに怖かったか。

そしてこちらをじっと見つめ、ひと声鳴く。どうやら騒ぎまくって喉が枯れてしまったらしく、その声は普段よりずっとか細く消え入るようだった。

全く可愛いやつめ。猫は猫だよな。

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