【創作取材記事】卒業していく若者たち

毎年この時期になると、卒業をする若者が急増するという。

若者の卒業件数を月ごとにまとめたグラフを確認すると、確かに他の月と比較して、3月というのは群を抜いて卒業件数が多いことがわかる。

 

日本人の卒業について研究しているという、公益財団法人ボーイズ・ビー・アンビシャス代表のジェイク・タケダ氏はこう語る。

「卒業とは、マトモに近づくことです。学校を卒業し、アニメやゲームを卒業し、童貞も、そして素人童貞も卒業して、やがて人間は完全なマトモになっていきます」

 

卒業というのは、それ自体を危惧するような事象ではない。

しかし、ジェイク・タケダ氏は次のような警鐘を鳴らしている。

「あまり頻繁に卒業を繰り返すと、その開放感に依存し、”卒業中毒”に陥ってしまうケースが確認されています。最新の研究では、完全なマトモになってしまった人々の内、約4%にあたる数が卒業中毒に陥っているとされています」

 

卒業中毒とは、一体どのような状態をさすのか。

我々は更に詳細なデータを集めるため、その当事者である会社員のNさんに取材を試みた。

「最初は、『ちょっと卒業するだけ』という感覚でした。でも、卒業を繰り返す内にどんどんその魅力というか、快楽にのめり込んでしまって、いつの間にか服を着ることや、歯を磨くことすら”卒業”してしまったんです」

 

会社員だというNさんは、いまではリモートワーク、つまり在宅勤務で日々の業務をこなしている。全裸で勤め先に向かうには、公然わいせつ罪という高いハードルを超えなくてはならないからだ。

更にNさんは、私生活でもその症状に振り回されているという。

「最近は、”暮らしからの卒業”というワードが頭を離れなくて。インターネットで偶然見かけたんですけど、それって素晴らしい発想だなと。それでいま、アパートの家賃をあえて滞納しているんです。電気代なんかも払っていないので、来週中には仕事ができなくなる予定です」

そう語るNさんの瞳は、まるで何かに取り憑かれたかのように赤く充血し、その瞳孔は開ききっていた。

 

たとえ身体に良いとされている食品でも、多量に摂取することによって害になってしまうことがある。

卒業というのも同じように、ある種の副作用を孕んでいると言える。それを追求した先にあるのは、社会的、もしくは肉体的な”死”だろう。

そう考えると、卒業式で学生たちが身に纏っているモノクロの装束にすら、特別な意味を感じてしまう。

 

あなたが次に卒業するのは、果たして何であろうか。

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