ミクロコスモスの果て

ひとつの道を極めた人間に強く惹かれる。

それは学問でも、芸術でも、スポーツでもいい。何かひとつの能力を懸命に磨き続けて、認められた人間のことだ。

 

史上初の「永世七冠」を成し遂げた羽生善治は、ちょっと現実味が無いほどに本物だ。

だから、そうではない自分から見ると、目を背けたくなるほどに輝いて見える。

 

1985年のプロ入りから現在に至るまで、名だたる強敵たちと、そして彼にしかわからない深い孤独と戦い続けられたのは何故だろう。

 

彼の通算勝率は71%で、1955戦の内562回負けている。あの藤井聡太4段の勝利数が51回なので、その10倍以上の回数、負けているのだ。こう見ると、どうやら彼は宇宙人やサイボーグというわけではないらしい。

 

同じ人間。だからこそ、すごい。

疲れれば眠くなるし、負ければ悔しい。それでも32年もの間、あの小さな盤の上で悩み続け、戦い続けてきたのだ。

 

 

俺は「長年かけて何かを成し遂げた」というエピソードに弱い。それは「たった一晩で大成功した」よりも、深く心に刻まれる。

前者には継続が必須で、それには信念とか愛とか、特別な想いがないと不可能だからだ。

 

「永世七冠」の4文字には、32年間分の物凄い熱量の想いが詰まっている。だからその字面を見ただけで、ふわっと涙腺が浮くのだろう。

塗田一帆(ぬるたいっぽ)

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