ずっと楽しみにしていた漫画がとうとう完結してしまった。
いや、「完結してくれた」と書くべきかもしれない。
漫画は作者の想定通り、読者の期待通りに終わるとは限らない。だから、「バイオーグ・トリニティ」の最終巻を読み終わったときには、その、これ以上ないであろう ”バイオーグ・トリニティ的な結末” に、心底安堵した。
バイオーグ・トリニティは、「青年向けSFバトルファンタジー」であり、「ラジカルポップな青春群像劇」である。第一巻の裏表紙にそう書いてある。
まず、ざっくりとあらすじを説明する。
物語の舞台は、両手にぽっかりと穴が開く病気「バイオ・バグ」が存在する世界。バイオ・バグを発症した人間は、それを利用して様々な物質を自分の体内に取り込み融合することができる。バイクを吸い込めばバイク人間に、蜘蛛を吸い込めば蜘蛛人間になる、といった具合だ。「星のカービィ」のコピー能力に近い。
ごく普通の男子高校生である藤井は、ある日、バイオ・バグを発症する。そして、ひとつの事件をきっかけに、世界を牛耳る巨大な組織同士の戦いに巻き込まれることになる。
ここまで書くと、まあ割とありがちな設定のバトル漫画という感じだけど、バイオーグ・トリニティは良い意味で期待を裏切ってくれる。
「え、そんなもの吸い込んじゃうの?それって大丈夫なの?」というものをガンガン挿れちゃう。それによって、物語は完全に予測不能な迷宮に迷い込み、「結局何をどうすればいいの……」という理解不能な規模にまで膨れ上がる。
それと同時に組織同士の戦いは激化し、滅茶苦茶強い敵が現れ、滅茶苦茶カッコいい味方も現れ、やがて読者の思考は、「何でもいいから綺麗に終わってくれ!」というひとつの願いに収束する。
能力バトル、SF要素、そして恋愛。
こんなにも複雑なプロットを14巻という適度な長さにまとめ上げることができたのは何故か。
この漫画は、原作(ストーリー)と作画を別の人間が担当する分業制で執筆された。
原作を担当したのは舞城王太郎。俺が本気で天才だと思っている人物のひとり。彼の書く世界観、そしてそれを裏付けるロジックは、並の人間には思いつくことすらできない。それを、月間連載の漫画という制限付きの状況で、ここまで見事に書ききったのには脱帽だ。
そして、その世界やキャラクターを完璧に再現、いや、表現してみせたのが作画担当の大暮維人。「こんな表現方法あったんだ」と関心してしまうようなテクニックをしつこいほどぶち込み、バイオーグ・トリニティという漫画の空気そのものを創り上げたのは彼の功績と言える。
バイオーグ・トリニティは、そんな二人のスキルの見事な融合によって生み出された作品だ。
この漫画の欠点を挙げるのは難しいが、しいて言えば、「15歳の男子が好きそうな成分全部盛り」な所だろう。一般的な成人男性には、それを心の底から楽しむのは困難かもしれない。
しかし、全ての成人男性の精神年齢は15歳である。
ということで、矛盾しているようだけれど、俺はこの作品を全ての男子におすすめしたい。
※もちろん女子でも楽しめる。
※エログロが苦手な人だけちょっと注意。
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