はじめの

今年に入って初めてジムに行った。

普通、社会人のスポーツというとゴルフとかマラソンが浮かぶと思うんだけど、俺はボクシングをやっている。

2週間くらい空いてしまったからスタミナが落ちてるかと思ってたけど、シャドー、マスボクシング、スパーリング(小学生相手だったから殴られ屋)、ミット、サンドバック、筋トレ、と普段通りのメニューをこなせた。年末年始もシャドーだけはやってたのと、花粉症の治療で呼吸が楽になったのも良かったかもしれない。

 

ボクシングをやっていると、頭の中にごちゃごちゃと溜まった不要なものを粉々に叩き潰せるような感覚がある。コンピューターのメモリを開放するみたいな。それと同時に汗もかいて身体の中の老廃物も排出できる。つまり、全てが真っさらな状態にリフレッシュされる。

ついでにドーパミンやらテストステロンやらエンドルフィンやらが分泌されて、とにかく気分が良くなる。いまも、かなり上機嫌でタイピングしている。

 

少し昔話をする。

ジムに通い始めたのは一昨年の秋くらいからなんだけど、その時期は今と比べても色々と未熟で、つまり最底辺の糞雑魚だった。当然、何をやっても上手くいかなくて、業績不振と人間不信でクタクタ。「楽になりてぇ」としか考えていなかった。

それから、自分の中の欲が次々と消えていった。もう自分には何も必要ないかな、呼吸をしてるだけで幸せかな、とか考えるようになって、最終的には「楽になりてぇ」という欲すら消えた。

すると不思議なことに、あるいは当然のことのように、「それじゃいかんでしょ」という気持ちになった。それで、まず最初に体力と活力を手に入れる手段を探った。

 

3日後、サンドバックを殴っていた。

 

それから物凄い勢いでハマった。すぐに好きになった、というより、多分最初から好きだった。

始めた頃はどうしてそれが面白いのか自分でもよくわからなかったんだけど、今ではかなり理解が進んでいる。

 

まず、「楽で難しい」ということ。俺の嫌いな「辛くて簡単」の逆。

そもそもアマチュアだし、減量をしてないことも大きいかもしれないけど、精神的にキツいと感じる部分がほとんど無い。ただ歩いてジムに行って、Tシャツ姿で練習して、ヘトヘトになって帰る。もちろん肉体的にはキツいんだけど、俺にとってそれはあまり関係ないらしい。疲れても疲れるだけだし、痛くても痛いだけ。

それでいて、とにかく難しい。自分の身体を操縦するのはそれほど上手くないから、ちょっとしたことでも思い通りにいかない。距離感もタイミングも掴めず、攻撃は空を切り、無意識にガードは下がり、隙だらけの顔面にカウンターを貰う。どれだけ高速で試行錯誤のサイクルを回しても正解がわからない。多分一生。それが滅茶苦茶面白い。

 

それと、うちのジムは凄く雰囲気がいい。

会長も、コーチも、ジムメイトも、マジで全員いい人。始める前は「不良とかいるかな」って思ってたけど、よく考えたら不良はジムに通って練習とかしない。

それに、文化的にみんな他人をよく褒める。人殴ってるのに「ナイスボディ」だもん。普通だったら傷害罪なのに。

あとたまに有名な強い選手が来てボコボコにしてくれる。

 

そういったわけで、ボクシングは面白いし、特に辞める理由がみつからない。多分どこかに引っ越しても新しいジムに通うだろうし、怪我とか病気とか老いで動けなくなるまでやるんだと思う。

 

あ、うちのジムに70歳の爺ちゃんいるから、老いても続けるのかもしれない。

塗田一帆(ぬるたいっぽ)

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