もう3日前のことだけれど、WBSSバンタム級決勝戦をテレビ観戦した。
この大規模なトーナメントの決勝まで進んだのは、日本が誇る”モンスター”井上尚弥と、フィリピンの世界5階級制覇王者ノニト・ドネアの両名。下馬評では若さと勢いのある井上が圧倒的に有利と言われる中で行われたその試合は、大方の予想とは裏腹に、死闘とも呼べるような接戦となった。
満員のさいたまスーパーアリーナに最初に入場したのはドネアの方で、ぺこぺこと何度もお辞儀をしながら歩いてきたのが印象的だった。彼は本当に礼儀正しいよね。一方の井上は、直前の弟の敗戦もあってか、ややピリついているようにも見えた。WBSS特有の派手な照明演出でリング周辺が照らし出され、両者がリングイン。いよいよ試合が始まった。
井上の滑り出しは非常に好調だった。直近の3試合がそうであったように、今回も早いラウンドでの決着かなと期待が高まる。が、しかし、第2ラウンドでそのアクシデントは起こった。ドネアの左フックがクリーンヒットして、井上の右まぶたをカット。結構な量の流血。そこから井上は、片目がほとんど使えない状態での戦いを強いられることになる。ドネアのパンチを貰う回数は徐々に増えていき、ついには鼻からも出血。これは後からわかったことなんだけれど、その時点で右目の眼窩底と鼻を骨折していたらしい。
それでも、井上は冷静だった。わざとグローブで右目を覆い隠すようにして視界のブレを少なくし、得意の左ボディブローこそ入れられないものの、ビシビシとパンチを打ち込みポイントを重ねていった。ドネアからしたら「なんでこいつ倒れないんだろう?」という感じだったと思う。第9ラウンドなんかは、ドネアの強打を浴びて井上がクリンチで凌ぐような場面もあったし、本当にいつ倒されてもおかしくないような状況だった。
しかし、なかなか倒れないのはドネアも同じで、普通なら井上のパンチを受けた選手は徐々に後退してロープまで追い詰められて左ボディで倒されるというお決まりのパターンがあるんだけれど、ドネアに関してはまるで井上のパンチが一切効いていないかのように常に前進して、逆に井上を追い詰めていた。もうテレビ越しで観ているだけでも怖かった。
試合が大きく動いたのは第11ラウンド。井上のコンビネーションがドネアを捉えて、ついに必殺の左ボディがクリーンヒットした。ドネアは瞬間的に戦意を喪失して数秒後にダウンしたんだけれど、このシーンはちょっと奇妙と言うか、物議を醸すような場面だった。まず、パンチが当たってからドネアがダウンするまでの間に、何故かレフェリーが間に入って井上の追撃を阻んだ。別にスタンディングダウンとかではないので、本来なら立っている状態の相手には追撃しても問題ないはずだった。ひょっとしたらレフェリーはローブロー(股間にヒットした)と勘違いしたのかもしれないが、それはそれで問題だし、ちょっと謎のムーブだった。更に言うと、ドネアがダウンしてから立ち上がるまでの間に、明らかに10カウントをオーバーしていた。これについては井上本人も後の会見で「幻の10カウント」と表現していて、レフェリーの忖度だったように思う。世界戦に感情を持ち込むな。
最終的には12ラウンドフルで戦って判定で井上が勝ったんだけれど、試合終了のゴングが鳴った瞬間に両者がふっと笑顔になって抱き合ったシーンは安堵感と高揚感で涙が出そうになった。
これまでずっと、「井上尚弥が苦戦するところが見たい」とか思っていたんだけれど、いざ実際に倒されそうになるのを目の当たりにすると本当に心臓に悪かった。繰り返しになるけれど、とにかくドネアが滅茶苦茶怖くて、井上が打たれているときに無意識に自分の身体が反応してしまうくらいだった。テレビ越しに殺気を伝えてこないで。
ただ、思わぬ収穫もあって、井上がかなり打たれ強いということが証明された試合だったと思う。ドネアはフェザー級まで経験している特別な選手だし、バンタム級に留まっている限りは暫くの間最強であり続けられると思う。スーパーバンタム以上はどうなるかわからないけれど。
さて、ここからは余談。
当日の試合中、Twitterの反応もチラチラ追っていたんだけれど、「観客席にヒカキンとセイキンがいる」という物凄く意外な角度からバズってトレンド入りしていた。何も知らない人にとっては、誰が戦っているかよりも誰が応援しているかの方が重要な場合もあるんだなと新鮮な驚きがあった。ちなみに、試合の後はちゃんと「井上尚弥」がトップの方に来ていたので、ニュースで結果だけを知って反応している層も結構いるんだなと。
ただ、今回の試合に関しては本当に全編通してエキサイティングかつ貴重な映像なので、どうにかしてフルで観てほしいなとも思ったり。きっと、ボクシングのことがちょっと好きになると思う。そういう試合だった。
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