夏の終わりに思い出すこと

9月1日は子供の自殺が最も多くなる日らしい。
夏休み明けに学校に行きたくないという理由で病むからだ。

そして、毎年この時期になると思い出すエピソードがひとつある。

俺の身近にもひとり、夏休み明けに学校に来なくなった奴がいた。
高校2年生のときで、そいつ――仮にSとしよう。Sは学校の近所に住んでいた。

Sは陽気な奴で、クラスには友達も複数いたので、その何人かで放課後Sの家に行ってみた。
すると、普通にリビングまで出てきて話をすることができた。

「朝になるとなんとなくダルくて行けないんだよ。でも、明日から頑張るわ」

彼はそんなことを言っていて、それならいいかと。その日はみんな帰った。

翌日、Sは学校に来なかった。

そして、俺はキレた。
「頑張る」と約束したのに、なぜ来ない!

俺は2限の授業をバックレて学校を飛び出し、自転車でSの家に向かった。

Sは部屋着姿で自室にいて、顔を見たときに、「こりゃダメだな」と悟った。
前日に会ったときとは打って変わって、完全に無気力状態。
何か話しかけても上の空という感じで、俺の怒りは引っ込んだ。
そして、どうにかしなくてはいけないと思い、俺はSを無理やり連れ出した。

カラオケに。

学校にいるクラスメイトから何度も着信が来ていたが全部無視して、Sとふたりで歌いまくった。
腹が減ったのでマクドナルドに入っててりやきハンバーガーを食べた。
ふたりとも学ランを着ていたので周りの大人からは奇妙に見られたかもしれないが、そんなことはお構いなしだ。

そのまま夕方まで遊んでいると、Sはすっかり元気を取り戻していた。
だから、一応訊いてみた。

「いまからでも学校行ってみるか?」
「嫌だよ」
「保健室だけでも?」
「うーん、それならまあ……」

そして俺たちはノロノロと自転車を漕いで登校(俺は再登校)した。

その翌日から、Sは普通に朝から学校に来るようになった。

Sがそうなった理由は結局知らないままだし、来るようになった理由も知らない。
もし休んだらまた俺が家に来ると思ったのかもしれない。

そんなことは別に、どうでもよかった。

 

※実話なので教訓とか無いし、同じシチュエーションで同じことをすればいいという話でもないです。むしろ逆効果の可能性もある。対象との信頼関係とか、許されるキャラとか、色々と必要かと。あんまり参考にはしないでください。

塗田一帆(ぬるたいっぽ)

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